大判例

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広島高等裁判所松江支部 昭和30年(う)37号 判決

一の点(原判決には、法令の適用に誤があると主張する点)について。

先ず、原判示事実と昭和二八年二月二六日附起訴状の公訴事実欄中訴因第二の記載部分とを彼此対照してみるとき、原判決の判文は、起訴状の文言と若干その表現を異にしている部分があるけれども、原判決においては、決して公訴事実と異る事実を認定したものではなく、公訴事実と同一の事実及び経過につき、詳細な説示をなしたものであることが自ら明瞭である。而して、原判決摘示の事実及び経過は、原判決挙示の証拠に徴してこれを認めることができる。

ところで、所論において、弁護人が縷々主張するところは、結局「渡辺詔夫から登記手続等の処理を委任されていた岩倉金次郎が松江地方法務局大田出張所に提出した関係書類は、いずれも関係者の承諾の下に作成されたものであり、これに基いて登記簿に記載された事項は、真実の権利関係に合致するのであるから、本件登記手続は、従来公認されているいわゆる中間略登記の場合に該当し、右登記申請は、これを以て虚偽の申立ということはできない」というに帰着するけれども、農地の移動、使用目的の変更等については、当時施行の旧農地調整法等によつても極めて厳重な制限があつたのであるから、たとえ、被告人が藤井庄市から、同人が旧自作農創設特別措置法に基いて売渡を受けていた本件農地六畝二五歩のうち二畝一五歩(七五坪)を譲受けるべき契約があつたとしても、これにつき何等正規の手続をとらなかつた以上、右契約は無効のものたることは当然であつて、被告人或いはその内縁の妻は、その所有権を取得するに由ないものといわざるを得ない。況んや、擅に宅地として使用するが如き、それ自体違法の行為であることは、更に贅言を要しない。

而かも、医師たる渡辺においては、病院の新築を計画していた関係上、正規の手続を経て、容易に本件農地のうち被告人が譲受けることゝなつていた部分を除いた残余四畝一〇歩(一三〇坪)を買受けた上、その使用目的を宅地に変更することができる立場に在つたのに反し、被告人としては、たとえ、正規の手続をとつたとしても、到底旧農地調整法による許可或いは承認を受けることを期待し難い状況に在つたため、敢て渡辺のためになされる登記手続に便乗せんとしたものであり、分筆の手続もその弁法の一としてなされたものにしか過ぎないこと、又右渡辺の外解放前の旧地主松下来治郎等の関係者が一応諒解していたとしても、同人等においては別段本件登記申請に符合するような新な権利関係の設定をしたのではなく、単に被告人の便乗を黙認したものにしか過ぎないことは、原判決挙示の証拠によつて容易に窺われる。

即ち、本件登記は、渡辺が買受けた部分に関しては、真実の権利関係に合致するものということができるとしても、被告人が譲受けることゝなつていた部分は、当初から被告人或いはその内縁の妻においてその所有権を取得することができなかつたものであり、又、渡辺としては本件農地全部を一括して買受けたものではなく、従つて、渡辺と被告人或いはその内縁の妻との間に別箇の売買契約が締結された訳でもないのであるから、被告人が譲受けることゝなつていた部分に関する限り、仮装の権利関係を登記簿に記載せしめることを以て、違法の事跡を隠蔽せんがための手段としたものにしか過ぎず、かくの如き登記は許すべからざるものであつて、結局、本件登記申請は、尠くとも右該当部分に関する限り、登記官吏たる松江地方法務局大田出張所の係事務官に対する虚偽の申立に外ならないと断ぜざるを得ない。いわゆる中間略登記は、適注な継続的権利移転関係につきその中間の登記を省略するものであるから、この場合と同一視することはできず、本件は固より適法な行為といゝ難い。弁護人の所論は、いわゆる中間略登記の意味を曲解するものであつて、独自の見解たるに過ぎない。原判決には、所論の如き法命適用の誤と認めるべき点はないから、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 裁判官 黒川四海)

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